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【大地裁】民法709条不法行為は、法律上の権利侵害を要せず
訴訟】発信:2002/07/30(火) 14:20:23  

   【事案の概要】

   本件は、自ら作成したソフトウエア(本件ソフトウエア)を販売する原告が、被告ソフトウエアを製作、譲渡、公衆送信する被告に対し、主位的に、被告ソフトウエアが本件ソフトウエアを複製又は翻案したものであり、被告の製作、譲渡、公衆送信行為が原告の著作権(複製権、翻案権)を侵害するとして、著作権法112条1項に基づきその差止めを求めるとともに、損害賠償等を請求し、予備的に、被告の被告ソフトウエアの製作、譲渡、公衆送信行為が不法行為に該当するとして、民法709条に基づきその差止め及び損害賠償を求めた事案。

   本事件において、大阪地裁は7月25日、著作権侵害は認めない一方で、予備的請求である不法行為による損害を認める判決を下した。ここでは本判決における大阪地裁の判断の一部を抜粋して紹介する。


   【大阪地裁の判断】

   ■著作権侵害について

   1.本件ソフトウエアの著作物性について

   本件ソフトウエアは、マイクロソフト社製汎用表計算ソフト「エクセル」のマクロ機能を使用してビジュアルベーシック言語により書かれたプログラムであり、高知県に提出される土木関係書類書式が入力された帳票部分と、一定のまとまりのあるプログラム言語の組み合わせによりコンピュータへの一連の命令を表現したプログラム部分から構成されていることが認められる。

  このうち、帳票部分は、高知県の土木関係書式をエクセルのワークシートに入力したものであり、誰が作成しても同一又は類似の記載にならざるを得ないから、作成者の何らかの個性が表現されたものとはいえず、帳票部分のみで独自に著作物とすることはできない。

  しかし、本件ソフトウエアは、プログラム中の命令の組み合わせについては、作成者であるBの個性が現れているものと認められ(乙22、証人C)、これら一連の命令部分と帳票部分を組み合わせることにより、一度の入力により複数の会社及び工事データを管理するなど原告の意図する機能を実現するものといえる。そうすると、本件ソフトウエアは、全体としては、プログラム中の命令の組み合わせ、モジュールの選択、解決手段の選択等のプログラムの「表現」に創作性が認められるから、著作物に当たると認めるのが相当である。

   2.被告ソフトウエアは本件ソフトウエアを複製又は翻案したもか

  本件ソフトウエアのコードと被告ソフトウエアのコードを比較すると、本件ソフトウエアでは、標準モジュール部分にプログラムが記載されているのに対し、被告ソフトウエアでは、帳票を表すワークシート一枚一枚にマクロを割り当てて短いプログラムが記載されているという特徴があり、その結果、二つのソフトウエアの間には、プログラムの表現及び機能において、次の相違点があることが認められる。

  ・・・相違点は省略・・・

  以上によれば、被告ソフトウエアは、本件ソフトウエアとは構造が著しく異なり、本件ソフトウエアに設けられている機能の多くを有しておらず、プログラムの具体的な表現といえるコードにも類似する部分がないから、構造、機能、表現のいずれについてもプログラムとしての同一性があるとは認められない。したがって、被告ソフトウエアは、本件ソフトウエアを複製又は翻案したものとはいえない。そうすると、原告の本訴請求のうち、著作権法112条1項に基づく被告ソフトウエアの複製、頒布、公衆送信の差止めを求める請求及び著作権侵害に基づく損害賠償請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。


   ■被告による被告ソフトウエアの製作、譲渡等行為が不法行為に当たるか

   1.帳票部分の類似性について

   被告ソフトウエアに含まれる35枚のワークシートを本件ソフトウエアのワークシートと対比すると、次のとおり、22枚が本件シートに依拠していることを示す徴表を有することが認められる。

   ・・・一致点は省略・・・

   以上によれば、被告ソフトウエアに含まれる35枚の被告シートのうち、62.8%に当たる22枚が本件シートに依拠するものといえる。また、被告は、原告と競合する販売地域(高知県下)で測量器、事務機などの販売という同種の営業を行っており、顧客にも共通する部分があるから、被告には、本件旧バージョンの試験的な発売が開始された平成11年1月から被告ソフトウエアの頒布が開始された平成11年4月までの間に、共通する顧客等からの情報によって、本件旧バージョン又は本件ソフトウエアにアクセスする機会はあったと推定される。

   そうすると、これらの被告シート22枚は、被告において、本件旧バージョン又は本件ソフトウエアから取り出した本件シートを複製した上で、これを改変したものと推認され、上記事実を覆すに足りる事情はない。

   2.民法709条にいう不法行為

   民法709条にいう不法行為の成立要件としての権利侵害は、必ずしも厳密な法律上の具体的権利の侵害であることを要せず、法的保護に値する利益の侵害をもって足りるというべきである。

   帳票部分も、高知県の制定書式により近い形式のワークシートを作るため、作成者がフォントやセル数についての試行錯誤を重ね、相当の労力及び費用をかけて作成したものであり、そのようにして作られた帳票部分をコピーして、作成者の販売地域と競合する地域で無償頒布する行為は、他人の労力及び資本投下により作成された商品の価値を低下させ、投下資本等の回収を困難ならしめるものであり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成するというべきであるしたがって、被告は、原告に対し、本件不法行為により原告が被った損害を賠償する責任を免れない。

   原告は、不法行為に基づく差止請求として、被告ソフトウエアの製作、譲渡、公衆送信行為の差止めを求める。しかし、不法行為を理由に相手方の一定の行為を差し止める請求は、特別にこれを認める法律上の規定の存しない限り、不法行為により侵害された権利が排他性のある支配的権利である場合にのみ許されるというべきである。本件においては、排他性のある権利である著作権の侵害は認められず、取引社会において保護されるべき営業活動上の利益が侵害されたにとどまるから、原告は不法行為を理由として被告に前記行為の差止めを請求することはできない。


   ◆H14. 7.25 大阪地裁 平成12(ワ)2452 著作権 民事訴訟事件
   大阪地方裁判所第21民事部
          裁判長裁判官    小   松   一   雄
          裁判官    阿   多   麻   子
          裁判官    前   田   郁   勝



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