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【東高裁】具体例が全く記載されておらず容易に実施できない
訴訟】発信:2002/08/20(火) 17:08:09  

   特許権者が、特許第2893069号に対する平成11年異議第74272号事件において特許庁がした取消決定を取り消すことを求めた行政訴訟事件において、東京高裁は7月2日、原告の請求を棄却する判決を下した。ここでは本判決の一部を抜粋して紹介する。

   【事件のポイント】

   1.明細書中に具体例が全く記載されていないとの理由で、当業者が実施可能ではないとした判断が正当かどうか

   2.周知技術に基づいて、明細書中に記載された用語の解釈をすることが、どの程度まで認められるのか

   【東京高裁の判断】

   ■争点について

   原告主張の決定取消事由は、要するに、

   @決定が、「出願当時既に周知のいかなるスペーサーを用いると接着力を有し、伸縮率の限界値が10%〜35%とすることができるのか、具体例が何も記載されていない。そして、出願当時、接着力を有し、伸縮率の限界値が10%〜35%のスペーサーが当業者に自明又は周知であると認めるに足る証拠はない。」(決定書4頁5行〜9行)としたことは誤りであり、また、

   A特許権者(原告)が、本件発明は、スペーサーそのものを作製したのではなく、周知のスペーサーの中から、個々のスペーサーの性質及び数十〜数百のスペーサーの分布状態を考慮して、スペーサーの伸縮率について調べた結果、伸縮率の限界値が10%ないし35%の範囲から選択されたスペーサーが用いられた場合、セル厚の均一性及び液晶の存在しない部分がないという効果を同時に達成することができることを発見したものである旨主張したことに関し、決定が「そのような記載は明細書にはなく、また当業者において明細書をそのように解釈することが自明であるとは認められない。さらに、特許権者は、本件発明は明細書の記載及び周知技術から当業者が容易に実施できる旨主張しているにもかかわらず、周知のスペーサーの中から、個々のスペーサーの性質及び数十〜数百のスペーサーの分布状態を考慮して、伸縮率の限界値が10%ないし35%の範囲から選択されたスペーサーの具体的な実施例を一つも示していない。」(決定書4頁17行〜23行)とした点は誤りであるから、

   本件特許が特許法36条3項の規定に違反してなされたものということはできず、決定は法の適用を誤ったものであって取り消されるべきものである、というものである。

   ■特許法36条3項違反の有無

   以上・・・省略・・・に認定したところによれば、本件明細書には、「接着力と、伸縮率の限界値を有し、前記伸縮率の限界値が10%〜35%の範囲」にあるスペーサーの具体例が一例も示されていない上、周知技術を考慮しても、周知のいかなるスペーサーが上記要件を満たすものに該当するのかが本件明細書の記載からは不明であるといわざるを得ない。

   そして、本件明細書に上記要件を満たすスペーサーの具体例が示されていないという事情の下では、本件発明を実施しようとする当業者は、接着力を有する個々のスペーサーについて、その「伸縮率の限界値」を知り、その数値が「10%〜35%」の範囲にあるものの中からスペーサーを選択する必要があるところ、前記4で認定したとおり、本件明細書には伸縮率の数値を定める前提となる温度、圧力等の条件が特定されておらず、スペーサーの「伸縮率の限界値」を求める方法が不明なのであるから、結局、「接着力を有し、伸縮率の限界値が10%〜35%」の範囲にあるスペーサーを得て、本件発明を実施することは、当業者の容易になし得ることではないというべきである。

   してみると、本件特許が特許法36条3項(平成2年改正前)に違反してなされたものであるとした決定の判断は、正当であり、何ら誤りは認められない。

   なお、原告は、拒絶査定に対する不服審判事件においては特許法36条3項違反はないとして特許を認められたものが、異議事件において同じ36条3項違反を理由に特許を取り消されることは、一貫性を欠き、違法であると主張するが、両事件は独立した事件であって、前者における判断が後者の判断を拘束すべき理由はない。また、一旦成立した特許に対して特許異議の申立てがされたときに、特許権者と異議申立人双方の主張を考慮して新たな判断を下すことは、法の当然に予定するところである。原告の主張は失当である。

   ◆H14. 7. 2 東京高裁 平成12(行ケ)384 特許権 行政訴訟事件
   東京高等裁判所第18民事部
       裁判長裁判官  永  井  紀  昭
       裁判官  塩  月  秀  平
       裁判官  古  城  春  実



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