


【訴訟】ジャンルでは、最高裁や東京高裁等の判決をタイムリーに紹介していきます。なお、判決は一部を抜粋し、裁判所の判断を要約していますので、正確な情報が必要な方は、各裁判所のホームページにて実際の判決文を直接ご覧ください。
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【東高裁】どこまでもいこう/記念樹…旋律は実質同一
【訴訟】発信:2002/09/10(火) 11:29:53
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本件は、歌曲「どこまでも行こう」に係る楽曲(以下「甲曲」という。)の作曲者である控訴人Aびその著作権者である控訴人金井音楽出版が、歌曲「記念樹」に係る楽曲(以下「乙曲」という。)の作曲者である被控訴人に対し、乙曲は甲曲を編曲したものであると主張して、控訴人Aおいて著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)侵害による損害賠償を、控訴人金井音楽出版において著作権(編曲権)侵害による損害賠償をそれぞれ求め、他方、被控訴人が、控訴人Aに対し、反訴請求として、乙曲についての著作者人格権を有することの確認を求めた事案。
控訴人らは、原審においては、複製権侵害の主張をしたものであるが、控訴人らの本訴請求をいずれも棄却し被控訴人の反訴請求を認容した原判決に対して控訴するとともに、編曲権侵害の主張を追加し、複製権侵害の主張を撤回したものであり、また、控訴人金井音楽出版が当審において請求を拡張した。
本事案で東京高裁は9月6日、1審・東京地裁判決を変更し、被控訴人に対し、控訴人Aに1000万円等の支払いを、控訴人金井音楽出版に約814万円等の支払いを命じた。ここでは本判決における東京高裁の判断について、その一部を抜粋して紹介する。
【東京高裁の判断】
(1)楽曲の表現上の本質的な特徴の同一性について
■判断基準
音楽の著作物としての楽曲の表現上の本質的な特徴の同一性の判断に当たって、控訴人らは、専ら旋律に着目すべきことを主張するのに対し、被控訴人は、旋律と和声は一体不離の関係にあると主張するとともに、旋律、和声、リズム、テンポ、形式等は音楽の著作物の本質的な特徴であるからその総合的な判断が行われるべきであると主張する。い。
もっとも、単旋律だけで表現される楽曲もあることは、上記J意見書及びK意見書の指摘するところであって、旋律は、例えば浪曲のように単独でも音楽の著作物(楽曲)として成立し得るものである上、旋律自体を改変することなく、これに単に和声を付するだけで、旋律のみから成る原著作物の表現上の本質的な特徴の同一性が失われることは通常考え難いところである。
これに対し、和声は、旋律を離れて、それ単独で「楽曲」として一般に認識されているとは解されず、旋律と比較して、著作物性を基礎付ける要素としての独自性が相対的に乏しいことは否定することができない。
そして、このことは、打楽器のみによる音楽のような特殊な例を除いて、リズムや形式についても妥当するものと解される。そうすると、楽曲の本質的な特徴を基礎付ける要素は多様なものであって、その同一性の判断手法を一律に論ずることができないことは前示のとおりであるにせよ、少なくとも旋律を有する通常の楽曲に関する限り、著作権法上の「編曲」の成否の判断において、相対的に重視されるべき要素として主要な地位を占めるのは、旋律であると解するのが相当である。
■甲曲の表現上の本質的な特徴について
本件において、甲曲と乙曲の表現上の本質的な特徴の同一性を判断する前提としてまず検討されるべきは、甲曲の表現上の本質的な特徴がいかなる側面に見いだされるかである。すなわち、甲曲が備える表現形式であっても、表現上の創作性がない部分において乙曲と同一性を有するとしても、そのことから表現上の本質的な特徴の同一性を基礎付けることはできないからである(前掲最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
このような観点から甲曲を見るに、甲曲は、控訴人A自身の作詞による歌詞を付され、Cの歌唱に係るテレビコマーシャルソングとして公表された楽曲であることからも明らかなように、旋律に沿って歌唱されることを想定した歌曲を構成する楽曲であり、そのような性格上、おのずと旋律に着目されやすいものということができる。
■旋律の対比
まず、甲曲と乙曲は、異なる楽曲間の旋律の類似の程度として、当初から編曲に係るものとして公表された例を除いて、他に類例を見ないほど多くの一致する音を含む(約72%)にとどまらず、楽曲全体の旋律の構成において特に重要な役割を果たすと考えられる各フレーズの最初の3音以上と最後の音及び相対的に強調され重要な役割を果たす強拍部の音が、基本的に全フレーズにわたって一致しており、そのため、楽曲全体の起承転結の構成が酷似する結果となっている。
特に、起承転結の「転」に当たる第3フレーズから「結」の前半に当たる第4フレーズの6音目にかけての部分を見ると、経過音レの有無とわずかな譜割りの相違という常とう的な編曲手法に係る差異があるほか、ほとんど同一というべき旋律が22音にわたって連続して存在し、ここだけを見ても、甲曲全体の3分の1以上(全16小節中の5.5小節)を占めている。
他方で、両曲の旋律の相違部分として、導音シの有無、上行形か下行形かとの差異等が認められ、このうち、特に導音シの有無の点は、乙曲のみが有する新たな創作的な表現を含むものとして軽視することはできないものの、量的にも、質的にも、上記の共通する旋律の組立てによってもたらされる支配的な印象を上回るものではないというべきである。
以上の認定判断を総合すると、旋律に着目した全体的な検討としては、両曲は表現上の本質的な特徴の同一性を有するものと解するのが相当である。
■和声について
乙曲が新たな和声表現を備えるものであることから、旋律に着目した場合の両曲の表現上の本質的な特徴の共通性を減殺し、ひいてその同一性を損なうこととなるかどうかという観点から更に検討するに、甲曲の楽曲としての表現上の本質的な特徴は、主として、その簡素で親しみやすい旋律にあることは前示のとおりであり、他方、乙曲も、大衆的な唱歌に用いられる楽曲としての基本的な性格は甲曲と同じであり、乙曲に接する一般人の受け止め方として、歌唱される旋律が主、伴奏される和声は従という位置付けとなることは否定し難い。
これらの点を踏まえると、和声の相違が両曲の曲想に前述したような差異をもたらしているとはいえ、その差異も決定的なものとはいい難く、旋律に着目した場合の両曲の表現上の本質的な特徴の共通性を上回り、その同一性を損なうものということはできない。
■その他の要素について
リズムに関して、甲曲が2分の2拍子、乙曲が4分の4拍子であることは、別紙1、2記載の各楽譜から明らかであるが、2分の2拍子の原曲を4分の4拍子に変更する程度のことは、演奏上のバリエーションの範囲内といえる程度の差異にすぎないことは前述のとおりである。
■本質的な特徴の同一性のまとめ
以上のとおり、乙曲は、その一部に甲曲にはない新たな創作的な表現を含むものではあるが、旋律の相当部分は実質的に同一といい得るものである上、旋律全体の組立てに係る構成においても酷似しており、旋律の相違部分や和声その他の諸要素を総合的に検討しても、甲曲の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものであって、乙曲に接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものというべきである。
(2)依拠性について
まず、甲曲が一般にどの程度知られているかを見るに、甲曲は、昭和41年にブリヂストンのテレビコマーシャルにおいてCが歌唱する形で公表された後、「このフォーク調のCMソングは、たちまち若者の間にひろがり、その人生応援歌的な歌詞は中年層にも共感をよんで、今でも歌いつがれている」と評されるように話題となり、昭和42年には、歌手Fの歌唱に係る甲曲がキングレコード株式会社からシングル版のレコードとして発売されたこと(甲21)が認められる。
以上の事実に、控訴人金井音楽出版代表者Uの陳述書(甲114)及び弁論の全趣旨を総合すれば、甲曲は、昭和41年に公表された当時にコマーシャルソングとして広範な層の国民に絶大な人気を博したばかりでなく、その後も、長く歌い継がれる大衆歌謡ないし唱歌としての地位を確立し、昭和40年代から乙曲の作曲された当時(平成4年)にかけての時代を我が国で生活した大多数の者によく知られた著名な楽曲であることが認められ、被控訴人が本訴提起の直後に受けた放送記者のインタビューに対する応答(甲85、検甲24)からも、被控訴人自身、これと別異の認識を有していたわけではないことがうかがわれる。
そして、何より、甲曲と乙曲の旋律の上記のような顕著な類似性、とりわけ、全128音中92音(約72%)で両曲は同じ高さの音が使われているという他に類例を見ない高い一致率、楽曲全体の3分の1以上に当たる22音にわたって、ほとんど同一の旋律が続く部分が存在すること、乙曲は反復二部形式を採用しているものの、その前半部分と後半部分に見られる基本的な旋律の構成は、甲曲の起承転結の構成と酷似していること、他方、甲曲程度の比較的短い楽曲であっても、その旋律の組立てにはそれ相応の多様な創作性の余地が残されていると解されることは前示のとおりであり、以上のような顕著な類似性が、偶然の一致によって生じたものと考えることは著しく不自然かつ不合理といわざるを得ない。そうすると、このような両者の旋律の類似性は、甲曲に後れる乙曲の依拠性を強く推認させるものといわざるを得ない。
(3)侵害論のまとめ
乙曲は、既存の楽曲である甲曲に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより創作されたものであり、これに接する者が甲曲の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものというべきである。そうすると、被控訴人が乙曲を作曲した行為は、甲曲を原曲とする著作権法上の編曲にほかならず、その編曲権を有する控訴人金井音楽出版の許諾のないことが明らかな本件においては、被控訴人の上記行為は、同控訴人の編曲権を侵害するものである。
また、被控訴人が控訴人Aの意に反して甲曲を改変した乙曲を作曲した行為は、同控訴人の同一性保持権を侵害するものであり、さらに、同控訴人が甲曲の公衆への提供又は提示に際しその実名を著作者名として表示していることは前示のとおりであるところ、被控訴人は、乙曲を甲曲の二次的著作物でない自らの創作に係る作品として公表することにより、同控訴人の実名を原著作物の著作者名として表示することなく、これを公衆に提供又は提示させているものであるから(乙曲について同控訴人の実名を原著作物の著作者名として表示することなく公衆への提供又は提示がされていることは当事者間に争いがない。)、この被控訴人の行為は、同控訴人の氏名表示権を侵害するものである。
そして、上記著作権及び著作者人格権の侵害について、被控訴人に故意又は過失のあったことは、これまでの認定事実に照らして明らかというべきであるから、被控訴人は、控訴人らに対する損害賠償義務を免れない。
◆H14. 9. 6 東京高裁 平成12(ネ)1516 著作権 民事訴訟事件 東京高等裁判所第13民事部 裁判長裁判官 篠 原 勝 美 裁判官 長 沢 幸 男 裁判官 宮 坂 昌 利
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