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【東地裁】「従来より知られた方法」が複数…権利範囲を狭く解釈
訴訟】発信:2003/07/17(木) 12:31:09  

   甲特許権及び乙特許権を有している原告が、被告に対し、被告製品が含有するマルチトール含蜜結晶は、甲発明の技術的範囲に属し、被告製品の製法は、乙発明の技術的範囲に属するから、被告製品の輸入、販売及び販売の申出は、甲特許権及び乙特許権を侵害すると主張して、被告製品の輸入、販売及び販売の申出の差止め並びに廃棄を請求していた事案において、東京地裁は6月17日、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決を下した。ここでは本判決における東京地裁の判断の一部を抜粋して紹介する。

   【東京地裁の判断】

   ■特許請求の範囲の「見掛け比重」の意義

   見掛け比重には、ゆるみ見掛け比重と固め見掛け比重の2種類があり、前者は、一定容量のカップに粉体試料を加え、粉体の表面を擦り切って秤量し、この時の粉体試料の重さをカップの内容量で除した数値をいい、後者は、粉体試料を加える段階でカップをタッピングし、粉体がカップ内により密に充填して求めた数値をいうが、一般に粉体の見掛け比重を論じる場合は、ゆるみ見掛け比重をいうものであることが、当業者に当然のこととして知られている。

   甲特許明細書の特許請求の範囲に見掛け比重の測定方法は記載されていないが、発明の詳細な説明には、「なお、比重の測定は、従来より知られた方法で行うことができる。」と記載されており(甲特許公報第7欄10行)、他に、見掛け比重の定義や具体的測定方法は記載されていない(甲2)。また、粉末マルチトールについての見掛け比重の測定方法は、日本工業規格JISにも規定がなく、これを規定したものは存在しない。…略…。

   このように、数値限定された特許請求の範囲について「従来より知られた方法」により測定すべき場合において、従来より知られた方法が複数あって、通常いずれの方法を用いるかが当業者に明らかとはいえず、しかも測定方法によって数値に有意の差が生じるときには、数値限定の意味がなくなる結果となりかねず、このような明細書の記載は、十分なものとはいえない。このような場合に、対象製品の構成要件充足性との関係では、通常いずれの方法を用いるかが当業者に明らかとはいえないにもかかわらず、特許権者において特定の測定方法によるべきことを明細書中に明らかにしなかった以上、従来より知られたいずれの方法によって測定しても、特許請求の範囲の記載の数値を充足する場合でない限り、特許権侵害にはならないというべきである。けだし、当業者にとって従来より知られた方法の一つで測定した結果、構成要件を充足しなかったにもかかわらず、別の方法で測定すれば構成要件を充足するとして特許権を侵害するとすれば、当業者に不測の事態を生じさせることになるからである。


   ■特許請求の範囲の「種結晶の存在下で」の意義

   「種結晶」とは、飽和あるいは過飽和の溶液や過冷却の溶液から結晶化を誘起するために用いられる小結晶をいい(朝倉書店発行『物理・化学辞典』。乙11)、種晶とも呼ばれる。過飽和溶液から結晶のできる過程は、まず核が発生し、次いで、その核が成長するという二つの段階に分けてとらえられ、晶出は、結晶核の発生と結晶核からの成長の両現象が相伴って起こる現象である。そして、結晶化を誘起するために添加する小結晶のことを種結晶というが、過飽和溶液内で核が発生し、その核が成長したものも、次の二次核化現象のための種結晶と呼ばれている。すなわち、種結晶(種晶)とは、結晶化を誘起するために外から添加することもできるし、自然発生したり、濃度勾配や温度勾配や外部からの刺激により、過飽和溶液から作り出すこともでき、結晶の製造に際して、系内で発生させた結晶核も、系外から添加した結晶核も、新たな結晶核の発生を促す役目を果たす、あるいは結晶成長の核となる結晶は、いずれも「種結晶」と称されている。

   乙特許明細書の発明の詳細な説明において、…略…と記載され、種結晶の品質、添加する時期、添加速度等について詳細な説明がされている。実施例は、それに制限されるものではないが(同第11欄35行)、乙特許明細書に記載された実施例としては、種結晶を系外から添加する例のみが記載されているだけであって、乙特許明細書には、乙発明に種結晶が系内で自然発生する場合も含まれることは記載もされていないし、示唆もされていない。

   また、原告は、乙特許の特許異議申立て手続において、特許異議答弁書を提出し、「本願発明は、細長い冷却・混練ゾーンを有する押出し機内に、原料及び種結晶を添加し・・・」と主張した。また、「好ましくは、本発明の改質ガンマーソルビトールは、結晶化を促進するために種ソルビトールを添加しないで溶融したソルビトール供給物を利用する、後述の方法によって製造される。」と記載されているように、種ソルビトールを添加しない溶融ソルビトールを利用する先願発明が存在していたところ、原告は、前記特許異議答弁書において、上記先願発明との対比において、乙発明は「種結晶の存在下で」冷却・混練することを強調し、上記先願発明は、「溶融ソルビトールが押出し機内に種結晶を添加することなく供給されるだけであり、本願発明のように、種結晶の存在下で冷却・混練することは記載も示唆もされていない。」との主張をした。その結果、乙発明は特許査定されたものであるから、原告は、上記先願発明と乙発明との差異をまさに種結晶の添加という点に見出しているということができる。…略…

   したがって、構成要件Hの「種結晶の存在下で」とは、「種結晶を系外から添加して」という意味に解釈すべきである。

   ■被告製造方法の内容

   被告は、公証人Cの立会実験により、被告伊丹工場において、株式会社栗本鐵工所製造販売に係る小型の「KRCS2ニーダー」を使用して被告方法が系外から種結晶を添加していないものであることを明らかにした(乙6、29)。また、タイ王国弁護士Dの立会実験により、タイ子会社によって実際に製造に使用されている株式会社栗本鐵工所製造販売に係る「KRCS15ニーダー」を使用して、タイ王国における被告方法が系外から種結晶を添加していないものであることを明らかにした(乙28、29)。乙第6号証は、公証人が作成した公正証書であり、乙第28号証は、タイ王国弁護士が作成した宣誓供述書であって、虚偽の事実が記載されたことを窺わせるような事情も認められない。

   また、被告の関連会社である株式会社上野製薬応用研究所は、種結晶を使用することなく、作業性がよく、低コストで、短時間のうちに効率よく結晶状マルチトールを製造する新規方法を提供するため、平成14年6月19日、「結晶状マルチトールの製造方法」として特許を出願した(乙30)。被告方法は、上記出願中の発明に記載された条件を用いる製造方法であり、種結晶を系外から添加することなくマルチトールを製造するものである(乙31)。


   ◆H15. 6.17 東京地裁 平成14(ワ)4251 特許権 民事訴訟事件
   東京地方裁判所民事第47部
   裁判長裁判官        部  眞 規 子
   裁判官      東 海 林     保
   裁判官   瀬  戸  さ や か



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